■ 縫合糸反応性肉芽腫 ■

■ 縫合糸反応性肉芽腫

 手術で使う組織をつなげるための縫合糸に異常反応を起こして、腫瘤性病変を作ってしまった状態です。主に絹糸や編み糸で手術をした際にみられるといわれています。
 2000年に入り、手術で使用する糸はより高価で安全性の高い合成吸収糸がメインになり、絹糸や編み糸を体内に残す手術をする事はほぼなくなったため発生は稀になってきました。 しかしながら、まれに反応しにくい成分でできている合成吸収糸でも起こりえます。合成吸収糸にも反応する場合は細いステンレスワイヤー(針金)での手術を行うこともあります。
 また、近年ではシーリングの機器がよくつかわれるようになってきました。 子宮と卵巣の部分に関してはシーリングを行う事により縫合糸を使用せずに手術が可能ですが、腹壁や皮下組織・皮膚は結局縫合糸で縫う事になりますので100%安心できるものではありません。

■ 検査

 診断において最も重要なものがエコー検査です。縫合糸反応性肉芽腫は、特に子宮切除部位によく発生するため膀胱に接している事が多いです。 よく見られるタイプの膀胱がんとの区別が重要です。 エコー検査を行うことで、膀胱の中に腫瘤なのか、外の腫瘤なのか、また腫瘤の中心部に糸と思われる残骸が無いかを確認できます。

■ 治療

 この症例では、腹壁もナイロンで縫われていました。黒色の絹糸という可能性もありますが、絹糸は体内にて数年経つとボロボロになる点や、 モノフィラメント(編み糸ではない糸)である事からナイロンであると判断できました。 通常であれば、反応のしにくいナイロンや合成吸収(特にPDSⅡという糸を使用します)の縫合糸で手術を考えますが、今回の場合はナイロン糸が使われていたため合成吸収糸を選択して行いました。

 縫合糸反応性肉芽腫は通常のしこりよりも激しく炎症を起こしていますので、 腫瘤は周囲の組織との癒着が激しく場合によっては膀胱の中まで肉芽腫が浸潤していることもあります。 今回の手術でも腫瘤が浸潤していた膀胱の一部分も切除し、縫合しました。 炎症を起こして癒着するということは、通常みられない細かい血管が新しく発生していることが多く、癒着をはがす際に出血を伴います。深く切除をしすぎると裏には大き目な血管があるために、 乱暴には切除はできません。

 癒着を安全に剥離できる範囲で剥離をした後に、止血をしながら切除を徐々にすすめてゆくと、腫瘤の中心部からナイロンの編み糸と思われる糸が2つみつかりました。 今回の縫合糸反応性肉芽腫の原因はナイロンの編み糸だったようです。 忘れずに卵巣の血管を結んだ糸も切除しておきます。

 今回の症例はMダックスフントの子でした。 犬種としては縫合糸反応性肉芽腫を起こしやすい犬種とされていますので、 おそらく避妊手術を行った先生は気を使ってナイロン糸を使ったものと考えられますが、子宮や卵巣を縛る糸を手で結びやすい編み糸にした点が問題であったようです。

よろしければ、併せて当時書いたのブログもお読みください。
ブログ:縫合糸反応性肉芽腫
ブログ:「縫合糸反応性肉芽腫」今回の原因は・・・どの糸?

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